忍者ブログ
「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

22 . March


21万打 カシスジャム様キリリク

ハンガリーさん、ご来店 痛くても、甘くても、ギャグでも、カオス(?)でも。
と、リクエストを頂いたのですが、書いてみたら、プーと貴族を見守る姉さんな話になっておりました。


苦情その他、受け付けておりますので遠慮なく、お申し出ください。

リクエスト、有難うございました!








拍手[16回]



 
 ベルリン市内、大通りから外れた小さな路地を入った所に看板も出ていない、商売する気があるのかないのか解らないドアノブに「営業中」と札が下がっただけな小さな喫茶店がある。看板が出ていないのにも関わらず、好奇心でドアを開いて入ってくる物好きなお客さんは居るようで、迷い人を探して、私が訪れたそのときはふたり、お客さんが入っていた。
 
 カウンターには相変わらずな感じに、頭に黄色い小鳥を乗っけたアホ面したこの喫茶店の店主なギルベルト。そのギルベルトの淹れたコーヒーを啜り、カウンターに座った初老の男性はギルベルトと談笑している。そして、もう一人のお客さん、私が探していた迷い人はソファ席で寛いで、保存状態の良い年代物の蓄音機から流れるショパンのレコードに耳を傾け、優雅に思索に耽っていた。
 
「お、エリザ、やっと迎えに来たのかよ。遅ぇよ!」
「五月蝿いわねぇ。ブタペストからここまで、結構時間、かかるのよ」
 
カウベルの音に視線を寄越したギルベルトが口を尖らせる。その顔をぶん殴ってやりたい。…衝動を堪えるのに、無意識に隠し持ったフライパンの柄を握り締める。それに気づいたか、ギルベルトの口端が怯えたように引き攣れたのを確認し、私は溜飲を下げた。
 
「おや、エリザベータ、あなたもいらしたんですか?」
「はい。ルートヴィッヒちゃんがまた迷子になってるんじゃないかって心配してましたよ」
 
おっとりと顔を上げたのは、ローデリヒさん。最近、ここがお気に入りの場所らしく、自宅にいないときには、何故かここに居る。この喫茶店、店主のギルベルトがウザいことを除けば、驚くほどに居心地が良かった。それ故に、一度、この店を訪れた客はリピーターになる。カウンターの初老の男性とは何度か顔を合わせたことがある。その男性がこちらに軽く会釈してくるのに、笑顔を返して、私はローデリヒさんの対面のソファに腰を下ろした。
 
「…全くもって、余計なお世話です。私は行きたい所に行こうとしてるだけです」
「なら、周りの建物を良く見て、場所覚えろよ。毎回、迷子になった所で電話で迎えに来さすなよな」
 
口の悪いギルベルトが口を挟む。ギルベルトとローデリヒさんは犬猿の仲と言ってもいいほどに仲が悪い、と言うか、相性が悪いのだと思う。
 
 ギルベルトは昔に比べ大分丸くなったとは言え、常に喧嘩腰で短気で相変わらずの馬鹿だ。ローデリヒさんも昔はキツい人だったけれど今は険とれて穏やかな、ピアノが弾けて、美味しいものを食べられれば清貧だろうが気にしない人になった。
 水と油な仲なのに何故か、ローデリヒさんはギルベルトの喫茶店を気に入って入り浸っている。顔を合わせれば啀み合って、(一方的にギルベルトが)言い争いばかりしていた。そして、一方的にギルベルトをボコるという仲裁してきた私にとって、この関係の変化は異変と言ってもいい。ローデリヒさんが店に長時間居座っても、ギルベルトが嫌な顔ひとつ見せやしないなんてオカシイ。ギルベルトの許容範囲は驚くほど狭く、自分の領域には気に入ったものだけ、意に添わないものはどんな手を使っても徹底的に排除する傾向にある。ギルベルトはローデリヒさんのすべてが気に食わないと何かと言っては、目の敵にしてきた。…長らくのふたりの関係と短いながらのあの同居時代を知っているだけに、二人の間に今ある穏やかな静寂が気持ちが悪い。そして、交わす言葉は乱暴なものだけれど、ギルベルトのローデリヒさんに対する悪意が見て取れないのが、違和感を醸しだして本当に気持ちが悪かった。
 
 「勘定」と出て行ったお客さんをギルベルトなりに愛想よく見送って、ローデリヒさんにギルベルトは視線を戻した。それにローデリヒさんは眉を寄せた。
「解らなくなったから、道を説明しなさいと電話しただけで、迎えに来て下さいとは一言も私は言ってはいませんよ」
「説明なんか時間の無駄だろ。どうせ、説明したって、した通りには来れなくて、時間無駄にするんだから、迎えに行った方が早ぇだろーが」
オーストリアさんの方向音痴は筋金入り。長いこと、移動は馬車か車と他人任せにしてきたひとが道を覚えられるはずがない。道を説明しても、ギルベルトの言う通り、通りの名前も特徴のある建物も、ローデリヒさんにとってはただそこに存在するもの。認識出来ないのだろうなと、ローデリヒさん捜索に出る度に私は思う。
「失礼ですね。最寄りの駅までは来れるようになりました」
ローデリヒさんがむすりと言う。ローデリヒさんにとってそれは凄い進歩だ。
「なったけど、お前、たまに逆方向の車両に乗ってるし、出てくる出口、間違えてるしよー。何度、同じ道通ったら覚えられるのかねぇ、坊ちゃんは?」
嫌味の入ったギルベルトのその言葉にむっつりとローデリヒさんは黙りこむ。それに肩を竦め、ギルベルトはカウンターを出てくると、私の前にカップを置いた。華やかな薔薇の絵の書かれたマイセンは私のお気に入りのカップで、中身はカフェオレだった。喫茶店のくせにギルベルトの店にはメニュー表はおろか、砂糖もミルクもスプーンもカウンター、テーブルには常備されていない。ギルベルトが勝手に淹れ、砂糖もミルクも調合されたコーヒーが勝手に出てきて、お客さんは黙ってそれを口にする。そのシステムに今のところ、クレームはないらしい。…ギルベルトの視線が動いて、ローデリヒさんを見やった。
 
「…坊ちゃん、おかわりは?」
「…いただきます」
 
ローデリヒさんの前に置かれていた空になった冷えたカップをギルベルトが持ち上げる。それを私は目で追う。
 
 ねぇ、このやりとり、有り得なくて、鳥肌立つんですけど?
 
ブラウスの袖を捲ると鳥肌が立っている。ギルベルトは踵を返し、カウンターのサイフォンの前。ローデリヒさんは目を閉じてしまった。仕方がないので、私はカフェオレを啜る。腹立たしいことにギルベルトの淹れるコーヒーは美味しい。たまに無性に飲みたくなる。
 
「ほらよ」
「有難うございます」
 
カウンターを出てきたギルベルトが新しいカップをローデリヒさんの前に置いた。フランツィスカーナー。ローデリヒさんが好んでよく飲むミルクの泡の代わりにホイップクリームを乗せたコーヒーだ。ホイップクリームを泡立てる手間がある分、面倒くさいそれを文句も言わずに、ローデリヒさんの好みを把握して出してくるギルベルトが本当に気持ち悪い。
「…アンタ、コーヒーに何か混入してないでしょうね?」
小声で訊ねる。それにギルベルトは眉を寄せた。
「何をだよ?」
「雑巾を絞った水とか、生ゴミの汁とか」
「俺はそこまで陰険じゃねぇ。客にそんなモン出すかよ!」
ぶすりとギルベルトは頬を膨らませる。怒られた。…まあ、確かに、そんなことをするほどギルベルトは陰険じゃなかった。嫌がらせも正面切ってやってくれる明朗快活な馬鹿だった。でも、何というか、仲良く出来ないの? 同じ言語、同じ民族でしょって、その輪から外れてしまっている私は思ってきたのに、ギルベルトとローデリヒさんとの間で波風立っていないと気持ちが悪いと思うのは何故なのかしら?…溜息、ひとつ零したところで、蓄音機に掛けられたレコードが歌うのを止め、ローデリヒさんが思い出したように顔を上げた。
 
「ギルベルト、」
 
「あん?」
「トルテをエリザベータに出してお上げなさい」
「おー!そうだった!!今日のは何だよ?」
「さくらんぼのブランデー漬けを知り合いに頂いたので、シュヴァルツベルダー・キルッシュ・トルテを」
「お、さくらんぼのトルテか。親父の好物じゃん。供えてやろ!」
カウンターに戻ったギルベルトが冷蔵庫から、ホールケーキと思わしきサイズの箱をウキウキと取り出してそれを切り分ける。
 
(…そっか。そうなのか…)
 
それを見て、気持ちの悪さと違和感が解消されて腑に落ちる。何てことはない。トルテと居心地の良い場所、美味しいコーヒーの物々交換で長らくの啀み合いから休戦協定を結んだのだ。ギルベルトとローデリヒさんは。
 
 ギルベルトが切り分けたそれを私とローデリヒさんの前に置く。ギルベルトに視線を移すと、切り分けたトルテをカウンターの隅に飾られた大王の肖像画の前にコトリと置いて、トルテの上、生クリームの上に飾られたさくらんぼと同じ色をした赤を細め、嬉しそうに微笑う。ローデリヒさんに視線を移せば、カップに口を付け、私を見つめ微笑した。私もそれに微笑を返す。
 
 
 
 
 時の流れは時に残酷で、そして、やさしい。
 
 
 
 
 昔を懐かしむのも、今を愛しいと思うのも積み重ねてきたものが、ここに確かにあるから、居心地が良いのだ。
 
 
 この三人でいる時間が、今はとても愛しく心地が良かった。
 
 
 
 
 
PR
NAME
TITLE
TEXT COLOR
MAIL
URL
COMMENT
PASS   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Schalter
mail
メールアドレス記載の場合はメールにて、記載が無い場合はサイトにてお返事いたします。
P R
ACT
Powered by NINJA BLOG  Designed by PLP
忍者ブログ / [PR]