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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
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29 . January


1828年 北ドイツ関税同盟

すれ違う想い。子どもとプロイセン。
捏造でヘッセンさんが出てきます。









拍手[31回]




 

ああ、お前の為ならば、この身を削り、尽くし、命を投げ出すことに寸分の躊躇いも覚えない。
 
 ドイツ統一。

その結果が自分の存在の消失と引き換えだとしても、俺はそれを喜んで受け入れよう。

あの青い目を見た瞬間、手に入れた恍惚と恐怖。

この子どもが俺を支配し、俺の身を喰らい、国となる。その何とも言えぬ得がたい恍惚と足が竦みそうになる恐怖がじわりとこの身を足元から飲み込んでいく。

怖い。

だが、俺は選ばれたのだ。こんなに誇らしく、名誉で喜ばしいことは他にはない。
俺を愛し、俺が愛した王を失ってから、投げやりに生きてきた俺に子どもは生きる意味を与えてくれた。

フリードリヒ、未だに忘れられぬ偉大なる俺の王よ。

お前の偉業のすべてはこの為にあった。俺のすべてはこの子どもの為にあった。
お前が心血注いで作り上げた俺の身体を糧に、この子どもは大きくなる。

今なら、解る。

俺は、この子どもに捧げられた贖罪の羊なのだと。ただ、その為だけに、俺は国になったのだ。
 
 
 
 






1828年 ヘッセン=ダルムシュタット大公国フランクフルト

「プロイセン、終わったぞ」
「おう。俺も終わったぜ」

ヘッセン=ダルムシュタット大公国とプロイセン王国との間で北ドイツ関税同盟が成立。

互いのサインの入った書面を交換し、プロイセンはヘッセンを見やった。
「お前が同盟に参加し、署名してくれて助かったぜ。これで、ラインライトからの物流が本国に繋がる」
「…ま、この関税同盟は俺にとっても利はあるからな。…でもまあ、他には警戒されそうだな」
三十を出たばかりの風体の青年は溜息を吐き、プロイセンを見やる。大公国は先の第二次パリ条約でプロイセンが獲得したラインライトの地と隣接している。飛び地となった領地を繋ぐ為にも、プロイセンはこの関税同盟を結ばねばならなかった。
「…まあ、それは黙らせるさ」
うっすらと笑みを浮かべるプロイセンにヘッセンは小さく息を吐いた。
(…関税同盟に署名して正解だったな。…今のプロイセンを敵に回したらどうなるか…)
あの王の時代のように生き生きとしている。先の大戦で死に体で消えそうだったとはとても思えない。…あの王亡き後、ただ国家が存続するから生きていただけに過ぎない男は、ここに来て、生気を取り戻した。自分の存在の意味を思い出したのだろう。その意味を思い出させたものは、一体、何か?
(…神聖ローマ…。いや、違う)
ヘッセンはプロイセンが自らの傍らに同席させている子どもを見やる。子どもの年はひとで言えば、7、8歳程。白磁の肌に目映いほどの美しい金の髪。冬の晴れ渡った空を思わせる青い瞳は冴え冴えとヘッセンとプロイセンを見つめていた。
(…ゲルマンそのものだ…)
かつて一族を率い、北を目指し、定住の地を求めた一族の長ゲルマンは白磁の肌に鋼の身体、陽光に輝く金の髪に美しい青い目をしていた…その姿を一度だけ、ヘッセンは目にしたことがある。だから、子どもを目にして本能的に畏敬と畏怖に身が竦む。何故、そんな子どもがオーストリアではなく、プロイセンの傍にいるのか…。そして、この目の前の男はこの子どもを手中に一体、何を目論んでいるのかと…。
「…プロイセン、彼は?」
「ああ、紹介がまだだったな。…正式にまだ名はないが、」
促すようにプロイセンが子どもを見やれば、子どもはふっくらと艶のいい唇を開いた。

「…ルートヴィッヒだ」

少し高い子どもの声。閉じて結ばれる唇。プロイセンの唇が開く。
「…今は名前がない。俺がいずれ相応しい名を与えるつもりだ。…ルートヴィッヒは我らの上に立つ王だ。…ヘッセン、お前には解るだろう?」
赤い目がうっとりと笑う。それが、いずれ夢物語りではなく、この男が現実のものとするのだろう。この男がそう言うのだ。

だが、子どもにちゃんとした名が付けば、この男の存在はどうなってしまうのか?

(…プロイセンのことだ。この子どもを傀儡とするつもりかもしれない)

食うか、食われるか…。
 この世界は、弱肉強食。

やるか、やられるか。

プロイセンが子どもを御するか。
子どもがプロイセンを喰らい、玉座に着くのか。

その様を見届けるのも面白いだろう。
 


既に王の風格を持ち、静寂を保つ子どもがただの子どもである筈がなかった。
 
 
 
 
 





「…良かったのか?公式の場に、おれを同席させて」

「いいに決まってるだろ。ここはいずれお前のものになるんだから」
ヘッセンの屋敷を辞し、帰途に着く馬車。子どもは同盟の調印がスムーズに進み、上機嫌な様子のプロイセンを見やった。
「おれの?…それは早計ではないのか?」
「早計じゃないな。…百年待たないうちに実現してやるぜ」
自信過剰に言い放つプロイセンを子どもは見やる。彼がそう言うのだから、そうなるのだろうと思う。オーストリアプロイセンの間を自分が行き来している間にも、この男は水面下で着々と事を運んでいる。

「でもまあ、ちょっと見ないうちに大きくなったな」

不意に伸びて来た手のひらが頭を撫でる。左右に揺れる前髪。
「…大きくなった?」
「前よりは成長してるだろ。お前が俺のところきたときには俺の腰くらいしか身長なかったじゃねぇか」
「…そうか?」
「ああ。でもまあ、急がずでっかくなれよ」
「おれは早く大きくなりたい」
「何でだ?」
「…早く大きくなって、兄さんの役に立てるようになりたい…」
消え入りそうな声で答えて、子どもは俯く。それにプロイセンは目を大きく見開いた。それに、子どもは慌てたように口を開いた。
「お、おこがましいことだと解ってる。兄さんは何でも出来るし、おれなんかが兄さんの役に立つなんて…思ってないけど…」
段々、萎んでいく語尾。プロイセンは再び、俯いてしまった子どもの頬を撫でる。
「何、言ってんだ。馬鹿だなぁ。お前、いるだけで十分、俺の役に立ってるぜ」
「本当か?」
頬を撫でる手のひらに子どもは顔を上げる。大きく青い瞳がプロイセンの赤を伺う。それに、プロイセンは柔らかな微笑を返す。その微笑は教会で祈りを捧げる者を見守り、幼子を抱いたやわらかな聖母の笑みに似ていた。
「本当」
プロイセンは子どもの金糸を梳く。
「お前がいるだけで、毎日が満たされてる。お前に会うまで、俺はこの世界から消えてしまいたかったし、いなくなりたかった。この世界がなくなってしまえばいいと思いながら生きてた。…あいつが死んでから、空っぽだった俺をお前は毎日、色んなもので満たしてくれる。だから、もっと、」
子どもの目に恍惚に滲んだ赤が融ける。

「俺を愛してくれ」

その声は、「満たしてくれ」と恐喝のような危険さと、誘惑に似た媚を含んだものにも聞こえた。ぞくっと感じたことのない何かが、子どもの背中を柔らかく撫でる。

「お前が俺を愛してくれればくれるだけ、俺は強くなれる。お前の為に何だってしてやれる」

その言葉に感じたものは、一瞬の恐怖と恍惚。…あのとき、感じたもの。
 
漠然とした形の見えなかった不安が、形になっていく。
 
おれが愛すれば、愛するだけ、この兄は身を削っていく。
愛する兄の血肉を喰らい、自分は成長していく。
そして、最終的にはその身のすべてを、自分はいつか喰らい尽くしてしまうだろう。

食われた者は、どうなる?
…いなくなる。消えてしまう。

それを、望んでいるのか…。この兄は…。
 

「…違う。おれは…」
そんなことは望んでいない。望んでいないのだ。

「ルッツ?」

唇を噛んで黙り込んだ子どもを不思議そうな顔をして、プロイセンは見つめる。…ああ、このひとは未だにあの大王を愛し、その大王が自分を置いていなくなったことを辛く思ってる。置いていかれた者のなら、その悲しみを知っているくせに、それを解っていないのだ。忘れてしまっているのだ。残される者の悲しみを。…何て、残酷なひとなんだろう。…子どもは視線を上げ、プロイセンを見つめた。

誰が、あなたを手放したりするものか。愛しきおれの騎士よ。あなたはおれに忠誠を誓うと言った。…だから、おれを見てくれ。ここにいるおれを愛してくれ。この先も未来永劫ずっと。この身がいつか朽ち果てるときにあなたも一緒に果ててくれたらいい。

「あなたを愛してる。…だから、おれはあなたの背中を守れるようになりたい」
 
…役に立ちたい…それでは駄目だ。この兄を守れるようにならなくてはならない。その為にはこの兄に肩を並べられるまでに、大きくならなければ…。それにプロイセンは驚いたように、目を見開き、子どもを見つめた。

「…ハッ、それはいい!そうなれよ、ルッツ!!」

歓喜に満ちた声を上げたプロイセンに不意にきつく抱き締められ、子どもは息を止める。

…守られているばかりでは駄目だ。急いで、大きくならなければ。このひとをこの世界に引き止めておける力を手にいれなければ。



子どもはプロイセンの背中に腕を回す。
 

『おれは今度は迷わない。守るためにこの世界のすべてを手に入れる』
 
 
そんな子どもに小さな誰かが、

 
『ローマになっちゃ、だめだよ!!』


と、囁く。
 


その言葉が、遠く奈落の底に落ちて聴こえなくなっていく。

『誰だっただろう?…おれにそう言ったのは?』

瞬きする間に目まぐるしく変わる青。子どもはきつくプロイセンのプルシャンブルーの布地を掴む。




 
 
 大事な言葉だったはずなのに、今はただ、この青年を失うことの方が子どもには恐ろしかった。
 
 
 
 





オワリ





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