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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
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08 . October



仕事をしたがる兄さんにやきもきする弟の話。
兄さんの愛は無限大だ。









拍手[19回]



 
 
 長く病床に在ったプロイセンが床を払い、仕事をさせろと言ってきたのは冬も終わり、そろそろイースターの季節になろうか、…花が咲き始めた春のことだった。それにドイツは始めは難色を示し、させる仕事などないと一蹴したものの、しつこくプロイセンは食い下がり、仕舞いには埒が明かないと思ったのか、上司の方に「仕事を寄越せ」と官邸に乗り込むという暴挙をやらかしてくれた。
 
「兄さんはまだ病み上がりなんだ。家で大人しくしてくれ」
 
「大人しくなんてしてたら、黴が生えてくるぜ。大体、お前、EUだ何だかんだで、内政には全然手が回ってねぇだろうが。そこを俺様がフォローしてやるって言ってんだ!」
「余計なお世話だ。あなたがいない間、ひとりで俺はやってきた。兄さんの手伝いなんかなくてもちゃんと出来る」
「…ああ、そうだな。ちゃんと出来てたさ。でも、俺の所為であっぷあっぷじゃねぇか。その上、EUまで背負い込んで、お前に負担が増えるばっかだろ!…俺だって、元国だったんだ。お前の仕事の手伝いくらい出来る。そんなに腑抜けてねぇよ」
「病み上がりに仕事なんか、任せられない。大人しく家に戻って、寝ていてくれ」
「病み上がりじゃねぇっての!この通り、ピンピンしてるってんだ!」
毎度の言い争いに上司が溜息を吐く。
「あなたからも思いとどまるように言ってくれ」
上司にドイツは視線を向ける。上司はドイツを見やり、プロイセンを見やった。
「…と、祖国は言ってるけれど、ベッドへ戻る気は?」
「ねぇよ!根っこが生えるぜ!…ってか、仕事させる気ねぇんだったらさせてくれるところに行くだけだ」
「な?!…どういうことだ?」
「俺様は優秀だからな。仕事先なら引く手数多だぜ。…でもまあ、あっちは寒いから正直、戻りたくねぇんだけどな…」
ちらりと意味深な感じに視線をプロイセンが寄越し、ドイツは沈黙する。
(…これは、脅迫か。…いや、恐喝だ)
そう切り出されれば、頷かざる得なくなる。苦労して取り戻した半身をまた失うことなど、どうして耐えられよう。ドイツはむすりと眉を寄せた。
「プロイセンにはあなたの仕事を手伝ってもらいたいわ。EUの中核を担うこと、国内の情勢を両方背負うのは、EUの混乱極まった今の状況では大変でしょう。あなたは弱音を吐かずに最後までやり遂げようとするから、見ているとハラハラするのよ。あなたの仕事を手伝ってもらうにしても、信頼の置ける優秀な人材を育成するのは時間が掛かるわ。祖国であるあなたのことを熟知し、あなたが国外にいて、国内で万が一のことがあったとしても、彼なら即座に対応出来る。これほど優秀な人材を他国にくれてやるのはもったいないと思わなくて?」
上司の言葉はもっともで、ドイツは苦虫を噛み潰した顔で言い訳めいた、プロイセンを気遣う言葉をを口にする。
「…しかし、兄さんは最近、やっと起き上がれるようになったばかりだろう。…無理をさせるのは…」
「ダイジョーブだって!最近はホント、お前のお陰で体、軽いしよ!」
「…だが、」
言いよどんでしまうのは何故なのだろう。プロイセンが自分の仕事を手伝う状況は六十年前にもあったが、各地を転々とし、長い期間、首都であるベルリンに、自分のそばに居てくれたことは全くと言っていい程なかった。それが、根底にあるせいか、幼い頃から感じていた寂しさが、ドイツの言葉を鈍らせる。
「とりあえず、リハビリと言うことで、プロイセンには官庁に出向してもらいましょう。定時には上がって家に戻れば、祖国も安心するでしょう?」
にっこりと上司にそう言われてしまえば、これ以上ごねることも出来ず、ドイツは溜息を吐いた。

「…解った」

そう頷く以外なかった。

 
 
 そして、一週間後、プロイセンは官庁の事務職に付いた。
 


 最初のうちこそ近代化されたシステムに付いていけず、ヒイヒイ言っていたようだが、そんな素振りはドイツには一切見せず、プロイセンはドイツが付けた家事を完璧にこなすという条件を完全にクリアして、仕事をしている。
 プロイセンを配属させた部署は官庁で最も忙しく仕事量の多いことで有名な部署で、ちゃんと働けているのかと粗を探すように探りを入れて見たが、プロイセンの卒の無さといい意味での人たらしぷりは昔と変わることなく相変わらずで、あっという間に上司を懐柔し、同僚を味方に付け、和気藹々と楽しく仕事をしているらしい。プロイセンが配属となってから溜まりに溜まっていた書類の山が瞬く間に減り、目に見えて、多かった残業が減ったという。配属先の上司に、良い人材を寄越してくれたとドイツは諸手を上げて感謝された。早々に慣れない仕事にプロイセンが音を上げ、泣きついてくるだろうと言う目論見を大きく外され、ドイツの眉間の皺は日毎、深まるばかり。長々と寝付いていたこともあって忘れていたが、プロイセンは昔から仕事をこなす速さが尋常ではなかった。集中力が常人とは違うのだ。書類に目を通し、決済の書類にサインを記す手は休むことなく動き、部下の報告を聞き、指示を出す。傍から見ると雑に見える仕事ぶりだが、出来上がった書類は完璧、指示は的確。ミスが無いのだから恐れ入る。
 
 自分がこうありたいと描く理想。
 それを容易く、実現する兄。
 越えられない壁。
 
 プロイセンのようになりたいと望んで努力してきたが、今ひとつ、近づけない自分が歯痒い。抱くだけ無駄な劣等感にドイツは苛まれる。日毎、プロイセンへの羨望と嫉妬に苛立ち、眉間の皺が増えてゆく。それに周りが反応し、空気がピリピリとするものだから、余計に苛立ちを覚える。とんでもない悪循環だ。
 
 プロイセンに仕事をさせたくない。
 
比べられるのが嫌だからではない。プロイセンの優秀さは自分だけが知っていれば、いい。他人が知る必要など、ない。やっと、プロイセンの世界を内側に小さく閉じ込めて独占することに成功したというのに、閉じ込めた先からプロイセンが逃げようとするのが、視線が自分以外に向くことが、すごぶる面白くないのだ。

 
「…怖ぇ顔。どーした?また、スペインかギリシャ辺りに無理難題でも吹っ掛けられたか?」

 
帰って来るなり、ただいまのハグもキスもなく、ソファに腰を下ろし、きつく眉間に皺を寄せ、俯いたまま微動だにしないドイツの肩にプロイセンは手のひらを滑らせる。その手にドイツは肩を僅かに震わせ、すんと鼻を鳴らした。プロイセンの体から、脂の乗った鴨のシチューの匂いがする。ドイツは顔を上げると、殆ど無意識にプロイセンの背へと手のひらを滑らせ、シャツを掴んだ。

「…兄さんなんか、嫌いだ…」

「俺のすべては、お前のものだ」と、プロイセンは言うが、ちっとも自分の思い通りにはならない。ドイツの前にあるのは幼い時からいつも忙しそうに働くプロイセンの後ろ姿ばかりだ。大きくなれば、その背中に手が届くのだと思っていた。身長も体重も、プロイセンを疾うに超えたと言うのに、未だに何一つ、自分はこの兄に敵いはしない。
「嫌いとか言いつつ、何だ、この手、矛盾してるぞ。ヴェスト」
ぎゅうっとシャツを掴んで離さない手に、笑いを含んだ揶揄する声。ぐしゃりと固めた髪を崩され、梳いてゆく指にドイツは目を閉じる。
「…嫌いだ。兄さんなんか。…俺が目を離すとすぐにいなくなるし、俺以外の奴と楽しそうにしてるし…、俺を構ってくれない兄さんなんか、大嫌いだ」
口を付く言葉は、まるで幼子の駄々のよう。ぐりぐりとプロイセンの薄い胸にドイツは額を擦り付ける。それにプロイセンは痛そうに顔を顰めたが、ニヨリと口元を緩ませた。
「…馬鹿だなぁ、ヴェスト。全力で、俺はお前を構ってるじゃないか」
「嘘だ」
「嘘なもんか。寝付いてる時より、お前の近くに俺は居るだろ?」
顔を上げれば、プロイセンはにっこりと笑い、ドイツの頬を撫でる。それにドイツは顔を顰めた。
「…遠いじゃないか」
「遠くない。俺はお前の近くにいるなって、実感してるぜ」
 
すべては、ドイツ、お前のために。…自分に出来ることが残されているならば、お前の役に立ちたい。今はすべてを失い、この体が残るだけになったけれど、俺はお前の兄貴だから、お前の役に立ちたいんだ。…お前のところに帰って来てからずっと寝付いてばかりで、お前には迷惑を掛けたし、それでも俺を必要だと言ってくれた、お前のそばにいたいんだ。…国民と共にお前の仕事を手伝える、少しでも俺がお前のために役に立てる、こんなにいいことはない。俺は本当に幸せ者だ。…そう思ってるんだぜ?
 
言い聞かせるように、プロイセンはドイツの髪を撫でる。ドイツは目を閉じる。…一生、自分はこのひとに敵うことはない。自分が気づかなかっただけで、プロイセンはこんなにも自分を愛してくれている。傍にいる。想ってくれている。
 
「…兄さんには、敵わないな…」
 
ぎゅっと抱きつけば、「当たり前だ」とプロイセンは笑って、ドイツの額にキスを落とした。
 
 
 





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