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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
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04 . November
本家より、妄想を絡めて番外も番外なお話。本家に出てきた花を「ブルーデージー」と捏造しております。






拍手[4回]




  腕いっぱいに青い花を抱いて、部屋に入ってきた青年を見留め、暫し、アメリカは瞠目した。それに青年は首を傾けた。

「ミスター、どうかされましたか?」

「…うん?ううん、何でもないんだぞ。それより、その花、どうしたんだい?」
「父が生前、庭に植えていた花が沢山咲いたので持ってきました。このオフィスは男ばかりで、華やかさに欠けますし、花でも飾れば、少しは彩りにもなるかと…」
青年の言葉を耳にアメリカはただぼんやりとその青い花を見つめる。…懐かしく、それでいて、悲しくて、切なさが胸を締め付ける。

 棺に収められた老人…、少年は不機嫌な顔で、自分が差し出した青い花束を棺に投げ込んだ。

「デイビィ…」

初めて、出来た「ひと」の友達だった。少年を自分は「デイビィ」だと信じて疑わなかった。でも、違ったのだ。棺に収められた老人こそが、自分に青い花を教えてくれた「デイビィ」だったのだ。
「お知り合いですか?」
アメリカの口から、耳にしたことのない名前が零れて、青年はアメリカを見やる。アメリカはぼんやりと青い花を見つめたまま、口を開いた。
「…小さい頃の俺は本当に無知で、知っていることと言いえば、自分が「アメリカ」だってことと、イギリスとフランスが教えてくれたことだけで、何も解ってなくて、ひとも俺と同じなんだって思ってたんだよね」
「………」
「その頃の俺にとって知ってるひとはイギリスが俺に付けた使用人で、年頃の近い子どもなんていなくて、勿論、友達もいなかった。初めて、俺に声を掛けけてくれたのがデイビィだったんだ。デイビィが見せてくれた図鑑にその青い花が載ってて、その花が今、君が手にしている花なんだぞ」
今なら解ることがたくさんある。大きくなったディビイが自分を解らなかった訳を。あの少年の困惑したような不機嫌そうな表情の意味を。…でも、それは過ぎ去ってしまった過去のことなのだ。
「…その花をずっと俺は探してた。あの図鑑の花を見つけたんだぞって、ディビィに見せたくて、ずっと…」
探すのに時間がかかって、気がついたら、ディビィは大きくなって、俺のことが解らなくなってしまってた。青い花を探して、その花を見せれば、きっとデイビィは自分を思い出してくれると無邪気に信じていた自分は本当に無知だった。

『デイビィ、青い花だよ。おれのこと、思い出した?』

少年はそれに無言のまま、アメリカを見つめた。

『ディビィは…、爺ちゃんはもういないよ』

その言葉がアメリカには信じられなかった。図鑑を広げ、見せてくれた少年は目の前にいる少年だと信じて疑いもしなかった。
「その青い花は、ウチには咲かない花だったんだ。その花がイギリスのところの花だって解って、イギリスにお願いして、手に入れて見せに行ったら、ディビィは棺の中で、俺がディビィだと思った少年は、彼の孫だったんだよ」
「…そうだったんですか」
「…うん。…それだけの、話さ」
アメリカは青い花から視線を逸らす。それを見やり、青年は給湯室に入って行くと長いこと仕舞われたままだった花瓶に花を活け、その花瓶を手に戻ってきた。
「この花の名前を御存知ですか?」
「ううん」
「ブルーデージーと言います。元は南アフリカ原産で、18世紀ころにヨーロッパに伝わったそうです」
「…そうなんだ」
「属名の「フェリシア(Felicia)」はラテン語の「felix(恵まれた、幸福な)」という意味があるそうです」
「イギリスがそういうの好きそうなんだぞ」
「サーはお詳しそうですね。…私は、ディビィさんではないし、彼が何を思って、この花をあなたに教えたのか解りませんが、ひとりでいたあなたに幸せを分けたかったのかもしれませんね」
「幸せ?」
「父から聞いたのですが、ブルーデージーの花言葉は、幸せ・幸運だそうです」
「…幸せ?」
「ミスターは今、幸せですか?」
青年の問いにアメリカは頷いた。

「俺は世界一の幸せものなんだぞ!」

色々と問題は抱え込んで、解決しそうにない案件も沢山あるし、イギリスとは袂を分かったときからぎくしゃくしたままだ。仲のいい友人(国)は少ないけれど、今の自分は少なくともあの頃の自分に比べて、はるかに自由で幸せだと思う。

 そして、この青年の父親に出会って、時を共に過ごして、解ったことがある。大事なひとが出来ることが怖かった。でも、今はずっと目を背けてきた必ずいつか訪れる「別れ」に向き合うことを怖いとはもう思わない。

「クラウスは今、幸せかい?」

アメリカはテーブルに花瓶を降ろした青年に訊ねる。青年は僅かに眉を寄せた。
「…そうですねぇ。…ミスターがいつも机を散らかさず、ゴミは分別し、片付けて頂ければ、私はとっても幸せな気持ちになれるんですが…」
「な、なんだい!それは!!そんなことを俺は聞いてないんだぞ!!」
憤慨するアメリカに青年は微笑う。



 あの日の青い花は、かけがえのないものになって、今、アメリカの胸に咲いている。








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