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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
20 . May
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12 . August
「流れる世界の果ての願いは。」を、改題、加筆修正した完全版です。





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 私がこの日が来ることを待ち望んでいたことを、あなたはご存知でしょうか。
 あなたとベルリンで別れてから、またあなたの元へと戻るまで、半世紀も掛かってしまった。
 
 あなたと廃墟と化したベルリンで別れて、あなたの愛した大王の棺をマーブルグのエリザベート教会に安置した後、私は手伝ってくれた青年…、アルフレッドさんの手引きでアメリカに亡命しました。アメリカではマルセイユの港で、これが最期だと思っていた家族と再会することが出来ました。慣れない地と言葉に妹も母も苦労してはいましたが、あなたが持たせてくれた金貨のお陰でアパートを借り、得意の裁縫で生計を立てていました。
 母はずっとあなたのことを案じておりました。もう、あなたに自分が仕立てたシャツを着てもらえることはないのだと、それを悲しんでいました。…その母も故郷を離れ、慣れぬ異郷の地…、あなたの元へ、いつか帰ることを望みながら、東西が分断された年に亡くなりました。
 母が亡くなり、妹とふたり。…私は亡命したとは言え、敵国の軍人でしたから、中々、職に就くことも出来ず、妹には本当に迷惑をかけてしまった。私に出来ることと言ったら、あなたに教わった数カ国の言葉とタイプが打てることくらい。…翻訳か通訳の仕事なら出来るかと仕事を探し始めて職安に通い始めましたが、職になかなか就けずに一年が過ぎ、二年が過ぎた頃、偶然、アルフレッドさんに再会しました。そのとき、アルフレッドさんに自分のところで働かないかと誘いを受けましてね。…まさか、そのときは彼がアメリカ合衆国そのひとだとは思いもしませんでしたから、いきなりホワイトハウスの執務室に連れて来られたときには腰が抜けるほど驚いたものです。敵国の官庁や国防省に出入りするようなことになるとは、昔の私には思いもしなかったことですから。
 アルフレッドさんの元で秘書官として働き始めて、私は管内の食堂で一人の女性と知り合いました。彼女はドイツ系ユダヤ人で人種政策から逃れて、アメリカに渡った来た移民のひとりで、どこか境遇が似ていたこともあって、私と彼女は直ぐに仲良くなりました。そして、彼女と結ばれ、随分と遅くになってからですが、二人の子どもに恵まれました。
 
「アメリカの地で、お前は幸せだったんだな」
「…ええ。死んで逝った同胞達に申し訳がないほど」
「馬鹿。そいつらの分まで幸せになれてねぇ方が死んだ奴に申し訳ねぇだろ」
「あなたらしい言葉だ」
 
目を細め、老人が微笑む。それを見やり、銀髪に赤い目の青年は目を細めた。
 
「ベルリンの壁が壊れた…と、真っ先に私に電話を下さったのはアルフレッドさんでした。奇跡が起きようとしてるぞ!…電話口で興奮したような声でテレビを付けろと。…急かされるままに付けたテレビの飛び込んできた映像に私は言葉が出なかった。……今世紀中にはきっと無理だろう。叶わないだろうと諦めていたことが、今、目の前で起ころうとしている。それが、とても信じられなかった」
老人はそっと残った壁に目を向ける。青年も同じように壁を見やった。
「…俺も、無理だって思ってた。…でも、国民は統一を望んだ。その望みを願いを壁一枚で遮ることが出来るはずなんてねぇ」
「そうですね。出来るはずがない。…壁が壊れたことが、私は嬉しかった。でも、同時に怖かった」
「怖かった?」
「嬉しかった。あなたにまた会えると。でも、壁が壊れたことを私は素直には喜べなかった。。…あなたは分断されたドイツの東を担う言う選択をし、その存在を保った。壁が壊れると言うことは隔てるものがなくなると言う事だ。流出していく国民は、まさしくあなたの血だ。西へと自由を求めて、流出する国民を堰き止める壁は包帯そのものだった。その壁が壊れて、包帯は取り払われてしまった。あなたの血はただただ、流れてゆくだけ。そうなれば、あなたの存在意義は壁が崩壊したことで失われるのではと…、壁の崩壊を喜ぶ同胞が壁の上で抱きあうのを見ながら、私は心から壁が崩壊したことを喜べなかった」
老人は青年を見上げた。
「壁が崩壊し、統一に流れが向かえば俺は消えると思った。それでもいいと。…解体宣言が出される前から、俺の存在意義は失われていたしな。役目を今度こそ全うしたと思ったさ。…でもまあ、統一を急いた所為か、俺が居た東側は前々から情けないことに経済はどん底だった。貧富の差は徐々に埋まってきてはいるが、西に比べ、失業率が高い。俺に巻き添え食らって、貧乏籤引いた国民を弟に押し付けて、自分だけ楽にはなれねぇだろう?」
「…あなたはそう言うひとだ」
「それ、褒めてんのかよ?」
「褒めておりますよ。あなたの律儀な性格のお陰で、私の願いが叶うのですから」
老人は呟いて、ほうっと息を吐く。それを青年は見つめた。
「私が、昔、あなたに告げた言葉を覚えておられますか?」
「…ああ。覚えてるぜ」
 
 
 いつか、必ずあなたのもとへ帰ります。
 
 
 あの日の若かりし頃の老人が自分に告げた言葉はまだ鮮明に耳に残っている。青年は赤を細めた。
「ずっとあなたのもとに帰ることばかりを望んできましたが、そんな私にもあなたと同じぐらいに傍にいたい、支えてやりたいと思うひとが出来た。私はそのひとに助けられて、今まで生きてきた。あなたの元に居た時よりも、ずっと長く…」
「…アルフレッドは本当にお前に良くしてくれたんだな」
「はい。アルフレッドさんがいなければ、私はここにはいなかったでしょう」
老人は青年を振り返った。
「私はそれを忘れて、壁が壊れたそのときから、あなたの元に戻りたいとそればかりを願ってきた。…祖国を捨て、世話になっておきながら、虫のいい話です。それに、アルフレッドさんは気づいておられた。気づいているのに、何も言ってくれないアルフレッドさんを私は憎みさえした」
老人は言葉を切った。青年はただ、老人を黙って見つめた。
「私は祖国を捨てた人間だ。それを改めて思い出して、私は何て恥知らずだったのかと気がついた。そして、アルフレッドさんが私を特別だと思っていてくれていることを知りました。…一年前の春、サーからあなたの伝言を聞きました。あなたにアルフレッドさんがマリアと私の家族の写真を渡して、それをあなたが大事に持っていてくれてることを知りました。アルフレッドさんの不器用なやさしさが身に染みて嬉しくて、あなたが私を忘れずにいてくれるなら、それでいいと、私は今、自分を必要としてくれているアルフレッドさんの傍にいたいと思った」
老人は目を伏せた。
「…アルフレッドさんは本当にアメリカと言う国そのままに、寛容で大らかな方です。そして、こんな私を友人だと言ってくださった。「君が君のあるべき場所に帰りたいと思うのは、当たり前のことなんだ」と、言うアルフレッドさんの言葉がなければ、私は望郷の念に囚われるあまり意固地になった自分を許せなかったでしょう」
「お前は、…アルフレッドのところに骨を埋める気はなかったのか?ここに帰ることを、家族は反対しなかったのか?」
この地は決して、いい思い出ばかりではないだろう。恐ろしく、思い出すのも嫌な思いをしたはずだ。青年は老人の青を見つめた。
「…一度は骨を埋める覚悟しました。アルフレッドさんが「いつだって会える。遮るもの何かはじめからないんだから」と言って下さって、私はあなたの元へと帰る決意が出来た。…私の帰る家は疾うに無くとも、あなたのいる場所が私の故郷であることに変わりはありません。ここで暮らした日々よりも長く、向こうで暮らしましたが、肉体は滅びて、魂だけになっても、私はいつかは帰るつもりだった。ここに生まれ、ここで死ぬのが私の生の最期だと思っていました。…家族は反対はしませんでしたよ。アルフレッドさんも私の思うようにしたらいいと言ってくれました」
冷たい風が吹いて、老人の褪せたマフラーを翻す。それを目で追って、青年は目を伏せた。
「…俺は、お前のいい故郷ではなかった」
「…いいか、悪いか…、そんなことは関係ありません。生まれ育った場所、そこに還り、また、新たな命を育み、繋いでゆく。それがひとの自然の営みなら、自分を育んだ母体に還りたいと望むのは、ひとの本能でしょう」
老人の青年を見つめる青い瞳は穏やかに凪いでいる。青年はそれに顔を歪めて俯いた。
「…プロイセン、私の祖国よ。…どうか、そんな顔をなさらないでください。私があなたの元に帰還できたことを喜んではくれませんか?」
青年の白い頬を滑る涙を老いた乾いた指先が拭う。青年はぼろぼろ見っとも無く嗚咽を上げて、涙を零した。それ老人は静かに見つめる。風が吹いて、青年はぐいっと袖で頬を拭うと、漸く泣き腫らした顔を上げた。
「…ありがとう。…俺の名前は無くなり、「ドイツ」になったけれど、それを後悔したりなんかしてない。でも、きっと、俺はまだ誰かに自分の存在を必要とされていたかった。…俺が存在する意味がまだ、在ったんだな」
「…あなたが居たから、今の「ドイツ」がある。あなたがいなければ、「ドイツ」はなかった。父なる「プロイセン」、あなたがいなかったら、再統一はこんなに早くは実現しなかったと、私は思っていますよ」
分断は様々な悲劇を生んだ。それでも、尚、ひとつに戻ろうとする力を壁一枚で遮ることが、どうして出来るだろう。引き裂かれた家族や恋人、兄弟の想いを隔てたままでいることなど出来はしないのだ。
「…お前は本当に、いつも俺の欲しい言葉をくれるな」
スンと小さく鼻を啜った青年が言う。それに老人は小さく笑った。
「あなたがあの時代、私のすべてで支えだった。失いたくはありませんから、言葉を駆使しましたよ」
「…それで、俺は救われた。…本当に俺は国民に恵まれてるぜ」
笑った青年に老人は笑みを返して、風で緩んだマフラーを巻きなおした。
「…私はあなたに返さなければいけないものがある。覚えておられますか?」
「…ああ。マリアから、一度は返されたが、お前に持っていて欲しかったら、返したんだったな」
「あの鉄十字は私のお守りでした。そして、マリアのお守りにもなって、マリアとあなたを引き会わせてくれた」
「偶然ってあるんだな。マリアに会ったのは、統一後で俺が一番しんどい頃だったよ。お前は戦時中、戦後、俺が一番辛い時にそばに居てくれたな」
「そう言う星の巡り合わせなのでしょう。私もマリアも」
「…俺は幸せ者だな」
「そう言って頂けて、嬉しいです。マリアも喜ぶでしょう」
老人はコートのポケットから、古い傷だらけの鉄十字を取り出した。
「お返しいたします」
「…ありがとう」
受け取ったそれを青年は身に付ける。胸元にはふたつの鉄十字がある。…ひとつに兄弟は戻ったのだ。…それに老人は目を細めた。そこに、たたっと小さな足音が響く。
 
「おじいちゃん!」
 
まだ、四、五歳か。白い頬を赤く染め、栗色の髪が揺れる。老人にぎゅうっと抱きついた子ども。青年に気づいて、睫毛を震わせ顔を上げた。青年を見上げたのは老人の、この空と同じように澄んだ青。
 
「ギルベルト」
 
老人にぴたりとくっついた子どもの頭を老人は撫でる。青年は目を見開いて、老人を見やった。
「ギルベルト?」
「私のアメリカに残った息子の子です。あなたの名を頂きました。さあ、ギルベルト、おじいちゃんがお前にせがまれて話してあげた私の故郷で、大事な戦友で、もっとも敬愛しているひとだ。ご挨拶なさい」
老人に促された子どもは青年を見上げる。その青は随分と昔、自分の指を掴んで離さなかった赤子と同じ色をしていた。子どもは老人のコートの裾を掴み、青年を見上げた。自分の異端の赤に怯えることもなく、少し緊張したような顔をして口を開いた。
「はじめまして、こんにちは。ギルベルト・アインハルトです」
「こんにちは。…はじめまして。…ギルベルト・バイルシュミット、…プロイセン、お前のおじいちゃんの戦友だ。お前のじいちゃんには昔、すげぇ、世話になったぜ!」
「おいで」と手招き、腕を広げれば躊躇うこともなく子どもは抱きついてきた。その子どもを青年は抱き上げる。腕に掛かる重みと温もりはいつ以来だろうか。青年は目を細める。抱き上げられた子どもは首を小さく傾けた。
「おじいちゃんはあなたにお世話になったって、言ってたよ?」
「俺の方が世話になったぜ。…ああ、でも嬉しいな。ヘルマン、お前の孫をまさか、抱けるなんて思ってもいなかった!」
「私も孫をあなたに抱いて頂ける日が来るとは思ってもいませんでした。こんなに嬉しいことはありません」
ひとの営みはいつだって同じように何があっても繰り返される。短い生を精一杯生き、過ちをあるときは犯し、それを悔いて前を向いて生きていく強さを持っているのだ。



 
 国とは、ひとが作るもの。
 ひとは悠久に恒常的な営みを繰り返し生きていく。それに国も寄り添い、ひとと共にあり続けるのだ。
 
 
 
 
 
 そして、繰り返される生と死の循環。老人は息を引き取ろうとしていた。それを家族が、幼い子どもの青い瞳が目の前に訪れる「死」を解らぬままに見つめている。青年の赤い瞳が悲しげに自分を見つめるのを、老人は見上げ、温かな手のひらで包まれた指先にほんの僅かに力を込めた。
 
「…祖国殿、何故、そんなに悲しい顔をするのです?…私はあなたへと還るだけですのに」
 
 私は、ふたつの国に愛され、とても幸せでした。
 
 この最期の日、家族とあなたに見送られ、逝くことが出来る。どうか、悲しまないでください。私は本当に嬉しいのです。彼のお陰であなたの腕に抱かれ、あなたに還ることが出来ることが。
 
 数多の出会いの中、彼とあなたに出会えた喜びだけが、私を満たしていく。
 
 思えば、私はあなたに出会った時から、ずっと叶わぬ恋をしていたのかも知れません。
 でも、それは秘めたまま、墓へと持って逝きましょう。
 
 どうか、次の来世も叶うならば、あなたが築いてきたこの地に産まれる事を望んでもいいでしょうか?
 
「…ヘルマン、今まで有難う」
 
一度、目を閉じ、慈愛に満ちたその赤を開いた青年は静かに微笑んだ。老人はそれに、にこりと笑った。
 
 
 
「…プロイセン、私が愛した国、私の故郷。…私はあなたが永遠にあることを、ずっと願っています…」
 
 
 
 どうか、また出会うそのときまで。
 それまで、Auf Wiedersehen.
 
 
 
 
 
 
 
□□□
 
 最初にこのお話を更新したのは、再統一二十年、壁崩壊二十一年目となる2010年10月のある日でした。
 このお話を某所で気に入って頂いたmaki様からコメント頂き、それからずっとヘルマンとアメリカの話を考えていたのですが、書くタイミングと言うか、踏ん切りが付かずに居たところ、蔦吉様にキリ番リクエストを頂き、アメリカとヘルマンの続編を書く機会を得ました。その続編を踏まえ、今回、題名を改め、完全版として新たに加筆修正しました。アメリカと青年の~3の4と5の間の話が、この話になります。
 殉教者~を書いた時点で、このヘルマンという青年の晩年まで、思い描いていたので、アメリカとの関係を踏まえ、彼の最期まで書ききれて、番外編としては思い残すことはないという感じです。後は本編を、だらだらと続いている無題シリーズの最終章ですので、何としても書き切りたいと思っております。
 
 このお話は、maki様と蔦吉様のお陰で、完全版として完成出来ました。コメント、リクエスト頂けなければ、出来なかった話です。本当に有難うございました。
 
 
冬故
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