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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
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07 . August
14手首:欲望 (日本)
純文学風を目指して、方向性を見失ったら、何か、神のように兄さんを崇める、爺の話になってしまった。
まあ、こういうのもアリだと思う。





拍手[6回]



「私の恋人」
 
 
 
 私の恋人は、とても美しく、寛容なひとだ。そして、彼は私の師だ。私は…、私の国は少々、太平を謳歌しすぎて、近代化の進む周囲から少し遅れてしまった。その遅れを取り戻すべく、私は諸国を巡る外遊へと出た。そこで出会ったのが、彼だった。彼は欧州一の軍備を誇る軍国、国家でありながら、生粋の叩き上げの軍人だった。私は彼から軍備と憲法について学ばせてもらうことになった。
 初めて、彼を目にした時、私は彼を「鬼」だと思った。銀髪、赤い瞳、誰とも違う色を身に纏い、彼は畏怖する私を見つめ笑んでいた。私の中の畏怖を見抜き、彼は私に「怖いか?」と問うたが、私はそれに何と答えただろう?…忘れてしまった。彼の世俗離れした異なる美しさに私はすっかり魅了され、虜にされてしまっていたから。彼のすべてが私を惹きつけてやまなかった。感情よりも理性を優先した理路整然とした考え方、所作は指先一つ、足の運び方一つとっても精錬で、ピンっと張った背筋、銃を構えても、剣を手にとっても無駄なく美しい彼に私は見惚れるばかりだった。
 
 嗚呼、彼が欲しい。
 
 日毎、私の中で不相応な欲求が高まり、私はそれを彼に悟られぬように、押し殺す。彼に嫌われることが何よりも怖い。この想いを知られ、軽蔑の眼差しを向けられたら、私の脆弱な心臓は止まってしまうだろう。
 
 彼はそんな私を疾うに見抜いていたのだけれど。
 
 彼はひとの心の機微に恐ろしいほど敏感で、そして、好悪の感情も激しかった。嫌いなものは徹底的に排除しようと手段は選ばず、好いたものは可愛がり、いつまでも傍において愛し、甘やかしたがった。
 
「…お前、俺が好きだろう?」
 
とある夜の事だった。彼の国の憲法を参考にし、草案を思索し、条文を考えていた。淡いランプの明かりが照らす部屋、珍しく姿勢を崩し、気怠げにソファにだらしなく身を凭せた彼が捲っていた本を閉じ、私に問うた。それに私の心臓は、大きな音を立て、早鐘のように鳴り始めた。
「…はい。お慕いしております」
心臓の音に邪魔されて、詰まった言葉が喉から絞られる。私の言葉に彼は赤を細めた。
「…イマイチだが、ま、一応、合格にしといてやる」
淡い色をした唇が弧を描く。伸びてきた硬い指先が私の頬を撫で、彼の唇が私に触れた。
「し、しょう…、」
何が起こったのか解らない。ただ、彼の柔らかい唇の感触が、私の唇に残る。
「俺のことを知りたいんだろう?」
「…はい」
「…俺を教えてやるよ。もっと、解りやすく、な」
私の髪を撫でて、笑んだ彼に誰が逆らえるだろう。そして、そうなることを私は有りもしない妄想よと、思い続けてきたのだ。その妄想が現実になったのだ。
 
 彼はどこまでも私に鷹揚だった。私の振る舞いが彼の気に障るものであっても、笑みを浮かべ、簡単に許してしまう。彼は自分の愛するものにはひたすらやさしく、甘く、寛容だった。私は彼に愛されているのだと舞い上がり、高揚し、それでいて居た堪れないような気持ちになるのだ。
 
 本当に、この美しいひとが私の恋人なのかと。
 これは、現実かと。
 
 
 
 
 
 露出の少ない、真夏であっても肌を日に晒すことのない彼の体は傷だらけだった。なだらかな張りのある皮膚に、幾多もの引き攣れた傷を持っている。彼曰く、「名誉の負傷」。「幻滅したか?」と、彼は笑ったが、私はその体に欲望を煽られただけだ。彼の体に残るその傷を憎たらしく思うし、同時に愛しいとも思う。その傷のひとつひとつを丹念に唇と舌で慰撫すれば、擽ったそうな顔をして、彼は赤を細め、私を見つめるのだ。
「舐めたって、もう、治らないぞ」
「解っていますよ。ただ、上書きしているだけです」
「上書き?」
「なぞっていれば、他人があなたに付けたものも、私のものになるでしょう?」
それに彼は笑う。
「手っ取り早く、お前がナイフで傷を上書きするほうが早いんじゃないか?」
そんな恐ろしいことがどうして、私に出来るだろう。時々、私の恋人は私を試すような、彼自身の身を私に傷つけさせるような言葉を平気で口にするのだ。
「そんな恐ろしいこと、私には出来ません」
「どうして?」
何でもない大したことのないような口ぶりで、彼は赤を細める。私は困って、言葉に詰まる。
「…あなたを傷つけるだなんて、そんなこと、どうして私が出来るでしょう…」
どうしてそんなことが出来るだろう。私は彼を下にも置かぬほど愛していると言うのに。彼は私の言葉を信じていないのだ。
「…お前はやさしいな。…試すようなことを言って悪かった。顔を上げてくれ。久方ぶりの逢瀬だろう?…もっと、俺に顔を見せてくれ」
ふっと綻んだ口元。長く節くれ立ち、硬くなった指先が私の頬を優しく撫でる。顔を上げれば、世にも稀な美しい紅玉、薄い唇が浮かべる笑みは酷薄でありながら、慈愛を滲ませている。頬を撫でる指がゆっくりと私の唇を撫で、その指に笑みを浮かべた唇が触れた。それに、心臓がどくりと音を立てる。
「…日本、」
情事の余韻を含んだかすれた声で名前を呼ばれれば、私の理性はいとも容易く崩れてしまう。誘われるままに、彼の唇に己のそれを重ねる。冷たく柔らかい唇の感触を楽しむ。微温い彼の舌が私の唇をなぞる。その舌を私は食んだ。
 
 嗚呼…、
 
 彼を師と崇め、神の如く崇拝し、足元に落ちるその影に触れるだけで精一杯だった。遠くから、その姿を望むだけで満足していた昔が、今は嘘のよう…。触れてしまったら、彼が触れることを私に許したから、私はひどく欲張りになってしまった。際限なくもっとと、欲を拗らせて、身動きが取れないほどに、彼で私の中はいっぱいだ。それなのにまだ足りないと欲しがる自分がいる。
「あなたが、欲しい…」
そして、彼はそんな欲張りな私に欲しがられることを望んでいる。もっと、もっとと、彼は私を強請るのだ。「欲しがれ」と。
 
 彼の伸びてきた手を捕え、その手首に恭しく口付け、私は私の印を付ける。
 それに彼が満足気に笑むのを、私はただ、うっとりと見つめるのだ。



 
 
 
 
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