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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
20 . May
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19 . January


兄さんと弟の冬の記念日の話。

先日書いたアレな話の後だけに、何か違和感ありまくりなんですが、建国記念日(ちょっと過ぎたが)祝いだ。









拍手[21回]



 
「今日、仕事、終わったら、店に来いよ」
「何だ?何か、あるのか?」
「ちょっとな。お前に見せたいものがあるんだ」
 
出勤間際、鞄を渡してきた兄さんがそう言って、機嫌がいいのを隠せないのかニヨリと笑みを浮かべた。
「何を企んでるんだ?」
その御機嫌具合に何か良からぬことを企んでいるのではないかと疑えば、追求を躱すかのようにぐいっと玄関へと押しやられた。
「企んでるけど、お前が思ってるようなことじゃねぇよ。…あ、今日は俺の店でメシを食うからな。帰りにワイン買って来いよ」
「…解った」
マフラーを巻きつけられ、「いってらっしゃい」と送り出される。何となく落ち着かなず、後ろ髪ひかれる思いで、出勤する。良からぬことでなければいいが…と、俺は思う。
 
 我が兄は本当に唐突だ。
 
 喫茶店を始めるとそれこそ寝耳に水の状態で言い出し、一ヶ月後には準備を終え、事後報告に「今日、開店した」と言われた時には目眩がした。長くは続くまいと思っていたが、開店して、もう三年になる。メニューは兄さんが勝手に淹れたコーヒーのみと変わった喫茶店だが、昔馴染みの連中の他に、一般の客も多い。看板も出していない、ただ営業中の札が下がった商売する気のない作りの店だが、居心地は不思議とすごぶる良い。気がつくと一時間、二時間と時が過ぎる。それが良いと長居を決め込む客も多く、ローデリヒなど、兄さんとは犬猿の仲だったクセにそれを忘れたかのように居座っている。それに兄さんは何も言わない。何故かと思っていたら、ローデリヒ手製のザッハトルテで懐柔されていた。
 そして、兄さんの淹れたコーヒー飲みたさに毎日のように顔を出す常連も多く、赤字が出ない程度には繁盛しているらしい。兄さんの淹れたコーヒーは特別な豆を使っている訳でも、凝った淹れ方をしている訳でもない。兄さんの気分によって毎日味は変わるが、何故か、淹れたコーヒーを口にした時、自分の飲みたかったコーヒーの味なのだ。その不思議さに常連は取り憑かれているのだという。休店日の次の日が驚くほどに待ち遠しいと常連客の一人になった経済雑誌の記者が兄さんに文句を付けていた。それに兄さんはしてやったり顔でニヤリと質の良くない顔で笑っていた。
 
 
 
 
 
 夕方、気が急いで、仕事を早めに切り上げ、言いつけ通りにリカーショップで少し値の張る兄好みの少し酸味の効いたワインを購入し、兄さんの営む喫茶店に俺は向かった。喫茶店のドアには「閉店」の札が既に下がっていた。随分と早くに店を閉めたようだ。色褪せた緑色のドアを開けば、カウベルが鳴り、カウンターから兄さんが顔を覗かせた。
「来たな。お帰り」
「ただいま。…今日は随分早い、閉店だったんだな」
いつもなら、十八時までの営業だ。今は十七時四十五分を少し過ぎたところだった。
「今日は特別な日だからな。ワインは買ってきたか?」
「言われた通りに」
下げていたワインを見せる。兄さんは嬉しそうににんまり笑い、俺からワインを受け取った。
「ところで、俺に見せたいものとは何だ?」
早速、グラスをふたつ取り出し、封を切って、コルクを開け、赤をグラスへと兄さんは注ぐと、ニヤニヤ顔のまま、視線を向ける。その視線に釣られるように視線を移動すれば、先日までぽっかりと空いていた壁に柱時計があった。
 
「…え?」
 
一瞬、その柱時計に目が点になる。黒鷲の飾りがついた木目の黒が美しい柱時計。俺という国が建国した三年後の建国記念日、眼の前に居る兄さんが作るのに時間が掛かったが、建国祝いの誕生日プレゼントだと俺に贈ってくれた柱時計だ。…だが、その柱時計は先の大戦の空襲で自宅を壊され、瓦礫の中から残骸を見つけることも出来ず、行方が知れなくなった。その柱時計が在りし日の姿のまま壁に掛かっていた。
 
「懐かしいだろう?中を開けてみろよ」
 
カウンターの上に時計のケースの鍵とゼンマイが収められた香箱を置き、兄さんが微笑う。その香箱にも見覚えが有った。香箱を開ける。時計のケースの鍵の頭には、時計の飾りと同じく黒鷲の意匠。ゼンマイには擦り切れたシルクの赤いリボンが結わえられている。このリボンは自分が結わえたものだ。兄さんの瞳の色をと、俺が選んで買ってきて結わえた…。
 
「…兄さん、これは?」
 
視線を返せば、何も言わずに兄さんはあの日と同じ微笑を返す。その微笑に促されるように、俺は香箱の中の鍵を取り、時計のケースを開く。時を刻む針を止め、文字盤をそっと慄える手で外す。文字盤の裏には、俺の記憶が確かなら、俺の建国を祝う、兄さんの言葉が彫られていた。
 
 
 
18.1.1871
 
liebe Bruder Ludwig (親愛なる弟 ルートヴィッヒへ)
 
Seien Sie zu germanischem Reich herrlich. (ドイツ帝国に栄光あれ。)
Es gibt immer Preußen mit Ihnen. (プロイセンは常にお前と共に在る。)
 
Gilbert Beilschmidt (ギルベルト・バイルシュミット)
 
 
 
 ヴェルサイユ宮殿、砲撃の音鳴り止まない中、帝冠を頂いたあの日。
 今でも、昨日のことのように思い出せる。玉座にある俺を眩しそうに見上げ、誇らしげに胸を張り、兄さんは笑んだ。
 
 その日が刻印された柱時計。
 文字盤に彫られた言葉は「共に歩んでいこう」と言う兄さんからのメッセージだった。俺は兄さんを振り返った。
 
「…その柱時計、空襲で流石に木っ端微塵にぶっ壊れたんだろうなって思ってたんだよ。…だから、バルトルト爺さんの店にそいつがあったときには、腰が抜けるほどに驚いたぜ。歓びの余り思わず、叫びだしそうだった。何で在るのか訊いたらよ、爺さんの親父が蚤市に出てたのを買って、大事にしてたんだと。売ってくれって、三年お願いし続けて、昨日、爺さんが死ぬまでコーヒー代無料って条件で、やっと譲ってくれたぜ!」
驚いたか?と、悪戯小僧のように兄さんが笑う。俺はそれに頷くことしか出来ない。
 
「奇しくも、今日は142回目の一月十八日だ。いいプレゼントだろ?ルートヴィッヒ」
 
 ワイングラスを差し出し、兄さんが言う。
 
「そして、今日はあなたがプロイセンになって、312回目の一月十八日だ」
 
あなたと同じ日に国になれたことをとても嬉しく思う。…俺はグラスを受け取った。
 
「有難う、兄さん。どうかこれからも、俺と一緒に」
「おう。一緒に歩いて行こうぜ!」
 
グラスの縁を合わせる。
 
 
 
 
 
 
 それはとある冬の日、いつも通りの日常。
 俺にとっては、特別な、忘れられない記念日になった。
 
 
 





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